*??? ~オーラニア王国「ヒュドラ・ヒュドラ教会」にて~
王宮からの御用達が来た。
伝書鳩とはいえ、こんな辺鄙な町の教会まで飛んでくるとは御苦労なこった。
にしても、なかなかの無茶ぶりを王宮も要求してくるねぇ。
『今夜中にミサを行うよう、オーラニア中の教会にご命令を下す』とは。
ミサを行う事は出来なくもないが、うちにも周期ってモンがあんだよ。
決まった日に人が勝手に教会に来てくれるならともかく、こっちから人を集めるよう呼びかけるのってなかなかめんどくさいんだが?
全く、そんな一斉に神頼みをするなんざ、うちの国の王サマらしくねぇなぁ。
どうせ何か都合の悪い事でも起きたんだろう。王宮か?或いは王都でか。
ま、らしくねぇっつったって俺が王サマの何を知ってんだって話だが。
詳しい事はいずれ分かんだろ。何かあったならあのメイジスが何もせず黙ってるなんて事、あり得ないからな。
仕方ねぇ。非常にめんどくさいがミサの準備でもすっかな。
それに。
“そういう事”なら、そろそろ“来る”だろ。
*ラルフ ~オーラニア王国「ヒュドラ・ヒュドラ教会」にて~
「いやぁ~!やっぱ来ると思ってたんよねぇ。な、ラルフ!俺の勘なかなか凄いと思わん?」
「あ、あぁ~、そうっすね、はは」
「な?そこの嬢ちゃんもそう思うよな?」
「えっ!?あ、うん!ノックする前に突然扉が開いたんだもん。びっくりしちゃった」
「ふふん。だろ?分かってんねぇ、嬢ちゃんは」
オーラニア王国最南端にある町ヒュドラ、そこにシンボルのようにそびえ立つ、少しばかり寂れた教会。
その教会に住まう、くせっ毛が特徴的な黒い髪、白いアルバに青いストラを肩から掛けた男。
メイジスの旧友ことヒュドラ教会の神父、バトラー=ランムートはニヨニヨと笑みを浮かべながら俺の傷ついた腕に包帯を巻いていた。
俺の隣では、既に包帯を巻き終えたアイリスがお茶と共に出されたリンドロメイルのクッキーを黙々と頬張っている。
住んでいると言えど、ここは教会。正確には、彼はその木々に隠されるかのように立つ教会直属の小屋に住んでいるらしい。教会周りにはやたら野花が咲いていたように思えたが、ガーデニングの趣味でもあるのだろうか。
まあ、そういった細かい事はともかくとしてだ。
そんな彼と出会って――かれこれ2時間は経つだろうか。
俺達の前にいる神父は俺達を迎え入れてから現在まで、一度も会話を途絶えさせる事無く話し続けている。
いや、正確にはこちらからは殆ど言葉を発する隙が無いので会話と言っていいのかすら怪しい。おしゃべり好きなのか、それとも久しぶりの客に高揚しているのかそれは定かではないが、これが俗に言うマシンガントークというやつだろうか。
「いやぁ、にしても面白すぎでしょ!腹減ったからって生きたチャケット鳥を捕まえようとするとか、…っく、はははっ!」
「そ、そんな笑います!?」
「いやだって普通そんな事しないでしょ。どんだけ腹が減って……しかも結局返り討ちに遭ってるし?いや面白……っく、ははは!!」
どうやらツボが浅い人らしい。
教会を訪ねた際、少しだけ零した俺達の経緯。
それを話したのが良くなかったのか、マシンガントーク中に度々いじってくる。勘弁してほしい。
まぁ、洞窟のひと悶着で泥だらけになった服のまま教会を訪ねたんだ。話したくなくても説明せざるを得なかったというわけだが。
「あー!ほら、この話は忘れましょう!?とりあえずは会えてよかったです、ありがとうございます。『教会にいるメイジスさんの旧友』という手掛かりしかなかったので会えるか正直不安ではあったんで。な、アイリス」
「え!?う、うん!そうだね」
アイリスは俺の隣で、美味しそうにリンドロメイルクッキーを頬張り続けている。
いや、いくらなんでも順応早すぎだろ。
……或いは、単にバトラーの話から少しでも逃げようとしているだけなのかもしれないが。
「あー、まぁそれは良いって事よ。で、ラルフ?とアイリスだっけか?あのさぁ~、お前ら来るタイミング悪すぎよ?ただでさえ俺は今日忙しい日だってのに、こんなタイミングで来て、更にはこ~んな泥だらけ傷だらけの状態でお邪魔しますっつって、もうちっと俺の手間考えてくれたっていいんじゃね?」
「……はは…、それは悪かったです、俺ももうちょっと早く来るはずだったんですけど、洞窟でのいざこざがあったせいで」
「あ~めんどくさい。めんどくさいなぁ。この後色々準備する事もあるのになぁ」
そう言いつつも、バトラーは俺の腕の傷の手当てをする手は止めない。
何なら包帯を巻く時「痛くはねぇか」「うっわここ痛そ。大丈夫か」などと一々声を掛けてくる。悪態を吐きまくってくる割に手当てはしっかりしてくれる所を見ると、案外良い人なのかもしれない。
……本当にこの人があの知的なメイジスさんの友人であるのか、という疑問は未だに残ったままではあるが。
「準備ってなにかこれからあるんですか?」
俺は小言を受け流すようにしつつ、包帯を巻かれている腕を見ながら問う。
「そうよ?今日はこの後ミサの準備がある」
「ミサ?ミサってお祈りみたいなやつですか?」
レスティリア地方には大きく3つの宗派がある。メイジット派、ゼディア派、そしてルミエラ派。3つに分かれているといえど、歴史上その全土を占めるのは圧倒的メイジット派であり、メイジット派とゼディア派は対立する事も少なくない。事実、過去に宗教戦争が起きて村が1つ滅びた事もあると昔誰かに教わった気がする。メイジット派が今多いのも、その時ゼディア教を信仰していた者達が惨殺されたためその数が殆ど減ってしまったのだとか。
まぁ、その教わった誰かが父親だったのか母親だったのか、はたまた別の誰かだったのかは思い出せないのだが。
その中でもルミエラ派は5年前オーラニア王国を中心に突如浸透し始めた宗派だそうで、オーラニア王国民の殆どはこのルミエラ神を信仰している。
現オーランド王、オーランド=ヴァイスシュヴァルツ=ラツァイファーも熱心なルミエラ信者らしい。
「それをこれからやるんですか?もう夜になりますけど……」
「あぁ、国王様のご命令とやらでね。信仰深い国王様の事だ、神頼みでもしなきゃまずいと判断したってことよ。……全く、これからミサを執り行う俺やこんな時間に集められる信者の身にもなれっての」
「集める……って、もしかして町中呼びまわるの?」
「まさかぁ?そんなんしてたら日が暮れちまうよ。……こいつを鳴らせば勝手に集まる」
バトラーは天井を指差す。そういえば教会の屋根の上にかなり大きな鐘がついていたような。
「ま、それはともかくとして話を戻そうかね。さっき言ってた『グリフォンの襲撃』ってやつなんだが……大体グリフォンは大人しい奴だろ?そんな襲ってくるなんて話信じられんけど本当にあったん?」
「それがあったんだよなぁ…。俺達を助けてくれた賢者……エトワールという方曰く、狂化魔法がかけられていたらしいです。それで普段温厚な動物でも狂暴になっていたのだとか」
「賢者やら狂化生物やら、なんか胡散臭い話にしか聞こえんけどね」
「……」
貴方の方がよほど胡散臭い、とまでは流石に言えなかった。
「にしても、ねぇ。賢者……エトワール……」
俺の傷を手当てする手を止め、わざとらしく考える素振りをしてみせる。
「もしかしてその賢者に心当たりでもあるんですか?」
「いや?無いけど」
ないんかい。
「こうやって悩む素振りでも見せれば、実はやばい神父なんじゃね、とか思うでしょ?賢者の知り合いでもいるん!?バトラーってすげぇ!ってね」
思わないが。
「ま、おちょくるのもそろそろ飽きたんでこの辺にするとして」
バトラーは俺の包帯を巻き終えると、俺達と対面になる位置に座る。
……随分とフリーダムというか、マイペースというか。
とりあえず話を聞く気分にはなったらしい。足と腕を組み、前のめりになって俺とアイリスの顔を覗き込んできた。
「で?俺の元に来た本当の目的はなんなのか教えて貰おうか。俺ンとこ来たのはメイジスの野郎の差し金だろ?てことは王宮か、或いは王都で何かあったわけだ」
「勘がいいんですね。……そう言う事です。今日の戴冠式で王宮は襲撃に遭いました」
「……襲撃?戴冠式の途中にか?」
「はい。黒いローブを着た2人組の奴にマリー王女が攫われました」
「こりゃ……エラい事になってんな」
バトラーのにやけ顔が少しだけ引きつる。常に笑っている目が少しだけ開いたような気がした。
「で?お前はその王女サマを助けるために黒いローブの奴らを追っているが、情報が足りないから困っている。メイジスの野郎に俺を頼ればいいと言われたんで、言われるがままヒュドラにいる俺ンとこまで来たってわけだな」
「そういう事になります。……何か知りません?黒いローブの奴らについて。どっかで見たっていう情報でも、本当に小さな情報でもいいんです」
俺の問いに、バトラーは再びわざとらしく考える素振りを見せる。アイリスも俺の横でクッキーを頬張りつつ、バトラーの言葉をじっと待っている。
暫くするとバトラーは組んでいた腕を解き、机を人差し指でこつこつと叩き始める。
そしてやがて「あぁ」と小さく声を漏らした。
「黒いローブの男の事はよく知らん。知らんが……お前らに役立つ情報なら持っていない事もない」
「本当か!?」
「あぁ、神に誓って有益な情報だって宣言してもいい」
「み、ミカエルの事は!?」
俺達のやり取りを聞いていたアイリスがここぞとばかりに身を乗り出す。クッキーはいつのまにか完食していたようだ。
……俺、まだ1枚も食べてないんだけどな。
「ミカエル?」
「私のお師匠様なの!白いローブを羽織った、魔導師の女の子……バトラーさん、何か知らない!?」
「あ?あー…質問だらけだなこりゃ……。そっちは知らんね。わるいけど」
「そ、……そうですか」
アイリスは少し落ち込んだ様子で椅子に座り直す。しかしすぐ顔を上げてバトラーを見やる。
「で、でも王女様に関する事は何か知ってるんですよね?それ、教えてください!」
「嫌だが?」
「「……は!?」」
あまりにばっさりと切り捨てられ、思わず俺達は目を丸くした。
「いや、『は?』じゃないでしょ。何タダで情報貰おうとしてんのよ。こっちはただでさえ忙しい時に客人を招き入れてんのよ?こうやってお菓子やお茶出したり、怪我の手当てしたりね。それなりの対価くらい無いと、ねぇ?」
「い、いやでも」
「メイジスの野郎の差し金で来たんでしょ?ならそれなりにお駄賃いただいてるんよね?ホラ、全部とは言わんから『お気持ち分』よこしなって」
バトラーはニヨニヨしながらこっちを眺めている。
俺は目を泳がせつつ、隣にいるアイリスに目配せをした。
(ね、ねぇラルフ。本当にこの人が王宮の偉い人のお友達で間違いないんだよね?)
(あぁ……間違いないはずだぜ)
(それにしてはなんかこう……なんていうか、その)
(みなまで言うな、言いたい事は分かる。……分かるが…こういうノリの奴とは俺も全く聞いてない)
(どうする?払うか?でもここで大金取られるのも変な話なような……)
(でも全く払わずただにしろ、っていうのもおかしいかも……?バトラーさんもこう、商売難?ってやつかもしれないし)
(神父で商売難ってどういうことだよこの人は……神様に仕えている身なんじゃないのか……)
(……よし、わかった。ここは私に任せて)
(何か策があるのか?)
(策っていうか……)
「おいおい、何こそこそしちゃってるワケ?」
俺達がこそこそ話していると、痺れをきらしたのかバトラーが声を掛けてきた。
アイリスはその声に反応するように、徐にローブの内側から巾着を取り出す。
……アイリス?いったい何を。
俺が訝しげに見るのも気にせず、アイリスはその中から大量の宝石を取り出すと机の上に置いた。
「「……は!?」」
「これでいい?」
俺とバトラーは出された宝石に驚き、思わず声をあげる。バトラーに関しては本当に出された事に驚いたのか、口をぽかんと開け宝石とアイリスを交互に見ている。
「あ、アイリス?そんなにどうしたんだ、それ…」
「ミカエルを捜すためにはきっと長旅になると思って、家にあった殆どの宝石を持ってきてたの。……魔法石、っていう類の宝石らしいから、それなりに珍しいものだと思う。バトラーさん、これで足りる?」
「足りるも何も、俺は何もここまで出せとは……。というか魔法石!?魔法石って使いようによっては兵器にもできる代物だぞ?なんで嬢ちゃんがこんなもん持ってんの!?」
「うーん。家にあったものだし、元々はミカエルのものだからわからないけど。……あ、でも、『お気持ち分』にはなると思う。気持ちはいっぱい込めてるよ!」
「そ、そうは言ってもだな……」
バトラーは狼狽え、頭を抱えてしまった。冗談のつもりで請求していたのか、それともアイリスに出させる気は無かったのか、こうなってしまってはよく分からない。
といっても魔法石という宝石は相当な価値と危険度を秘めているらしい。それを持っているアイリス――もとい、ミカエルは只者ではないのかもしれない。アイリスの言う通り、実は本当にすごい魔導師なのだろうか。
当のアイリスはと言うと、真剣なまなざしでバトラーの事を見つめている。
「あー、アイリス。それしまえ、俺が出す」
「えっなんで?」
「ミカエルから貰った物なんだろ?ならそれはもうちょい大事な時に使え」
「えぇ……でも、」
俺は半ば強引に机の上の宝石を手に取ると全てアイリスの巾着袋の中へと戻し、代わりに自分の腰につけた鞄からメイジスさんから貰った袋を取り出す。
「……ん?何だこれ、“親愛なるバトラー”…?」
「ん?……なに、俺?」
メイジスさんの前で開けた時は気づかなかったが、袋を開けるとその中に一枚の紙きれが入っているのが見えた。俺はそこに記された名前の持ち主にその紙切れを渡す。
「なんだ、メイジスからか?何……。……」
バトラーは紙に書かれたメッセージを読むや否や「ぐ、」と息を詰まらせる。
「……?何が書いてあったんですか?」
俺の問いに、バトラーは無言で紙を広げる。普通役所の人間以外に文字が読める人間は殆どいないが、俺は幼少期父親に勉強させられまくっていたので難なく読む事が出来た。
アイリスも俺と同じように紙を覗き込む。アイリスもどうやら読む事に関しては問題ないようだ。
“親愛なるバトラー
お久しぶりです。お元気ですか?
ラルフさんから事情は聞いているでしょうが、王宮は今大変な状況下にあります。
我が王宮の危機なのです。
それを救う為、ラルフさんは国王のお言葉に従い、前線で動き出してくださいました。
まさかとは思いますが、そんなラルフさんにたかるなんて事、していませんよね?
いくら世渡り上手であるバトラーといえど、まさかそんな小汚い真似をするなんて事、ありませんよね?
失礼、旧友に対しての信用に欠ける発言でしたね。
では、ラルフさんをよろしくお願いします。
私は貴方を信じていますよ。
P.S.仮にも神父が隙あらば金銭をせびるなどいい加減にやめなさい。胡散臭さが増します。
メイジス=アリシア”
「…………」
「…………」
「…………………」
俺とアイリスは無言のままバトラーの方を見た。
「ぐ、ぅうぅうううぅうううぅ…………っ!!!」
バトラーは頭を抱えるようにして悔しそうに歯ぎしりをした後――やがてがっくりと肩を落とした。
「……メイジス…いや、ファンディアス主宰に免じて、だ。……特別にただで情報を提供してやる」
「いいんですか!ありがとうございます!」
「仕方ねぇ、“親愛なる”メイジスの頼みだ。……くそっ、何が“親愛”だ……。ゲフン。で、その情報ってやつなんだが……お前達、アルドニアの都市伝説は知ってるか?」
「アルドニア、ですか?」
「あぁ、アルドニア王国、王都ハーランド。最近そこで奇妙な事件が多発しているらしい。何でも住民が次々と行方不明になっているんだと」
オーラニアの東に位置する国、アルドニア。近隣諸国において、国家としては最も長い歴史を持つ国である。
「アルドニア……って、大きな国だよね。そこで住んでる人がどんどんいなくなるって、けっこう大変な事なんじゃ?」
「大きな国である分、日頃から小さな事件も起こりやすいだろうけどねぇ。同じ場所で連続的に起きてる事を考えりゃ、同一犯が絡んでいる可能性が高い。で、その事件が起こり始めたタイミングが、」
「マリー王女の拉致事件と被る、と?」
「正確にはアルドニアの方が事件としては早く起きていたっぽいけどね。俺も参詣に来た旅人から聞いただけだ、詳しい事は現地の奴らに聞いてくれって感じだが……。つい最近突然、図ったように。行方不明になる奴が増えたらしいし関連性はあるんじゃね?ってとこよ」
「なるほど……」
「ラルフ、なら次はアルドニアに行くべきじゃない?」
「あぁ、そうだな。……その為には一度王都に戻って国境を超える必要がある。一度王都には戻ってミカエルについて探るなら、その足でアルドニアに向かうか。……ありがとうございます、バトラーさん」
「待て、今日は流石に休めよ?アルドニアまではかなりかかるだろうし」
「はい。なのでまずは寝床を……」
「それに関しては、……あー、俺に任せろ。ノンさんの宿屋を紹介してやる」
「ノンさんの宿屋?なに、それ?」
「俺の従妹がやってるこの町一番の宿屋ってやつよ。俺のお墨付きのな。こんな時間になっちまったが、ヒュドラなんかに来る客人も最近は少なくなってる。今から行っても部屋は空いてんだろ」
……バトラーさんの従妹、バトラーさんのお墨付き、という言葉で何となく不安を覚えるのはきっとアイリスもだろう。
まぁ、それはそれだ。寝床を確保できるのはありがたい。この汚れた体をさっさと洗い流して、早いとこ休んでおきたい。
結局チャケット鳥も食いそびれたんだ。腹も減ったしな。
「分かりました。行ってみるか、アイリス」
「うん。クッキーごちそうさまでした、バトラーさん」
「いいってことよ。宿屋はここからまっすぐ行った突き当りにある。黄色い屋根が目立つから行けばわかると思うぜ?ほら、さっさといけいけ」
しっしと半ば追い出されるように、俺達は教会を出た。
暫く真っ直ぐ道を歩き、やがてバトラーさんの言っていた宿屋に到着する。
教会の鐘の音を背中越しに聞きながら、俺とアイリスは宿屋の中へと入るのだった。
*??? ~オーラニア王国「ヒュドラ・町外れの丘」にて~
目標確認。
彼はあの時無謀にも飛び出してきた無能な男です。
えぇ、そう。武力を持ち合わせていない、可愛いひよっこ剣士さん。
彼の意思で王都を出たのか、はたまたあのオーラニアの王様が指図したのか、どちらかまでは分かりませんが。
……えぇ、そこは重要ではありませんね。
とにかく、オーラニアからの刺客、という見解は間違ってはいないでしょう。
青い魔導師は魔術反応もかなり低いので、そこまでの脅威にはなるとは思えません。
剣士の方は言うまでもありませんね。
あぁ、それと。今夜はヒュドラ教会でルミエラ信徒のミサが行われるそうです。
……えぇ、丁度同じ場所に、一箇所に。
そちらの方はいかがしますか?
………
……
了解しました。
では当初の予定通り。
邪魔者の種が芽吹く前に、その種を破壊してしまいましょう。
お任せください。
全ては貴方のお望みのままに。